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夏の北風 終話(後)



終話(後) ここが原点

 それから二時間。その頃には皆が起き出し、ゆうべの話が冗談でなかったこと
で皆は優子とそして山崎砂田の二人の想いを察していた。
 軽い朝食の支度はできている。沢へ行った五人の帰りを待っていて、ちょうど
コーヒーができた頃、古く粗末な家の板戸がガタガタ軋んで引き戸が開いた。
 砂田を先に、優子、斉藤、瑠美、最後に山崎が家へと戻る。家に入って瑠美は
真っ先に瀬田に向かってウインクし、そのほか皆に微笑んだ。首尾は上々と言わ
んばかりに。優子の眸が赤かったが優子は明るく溌剌として、明らかに何かが変
わったよう。それは男二人もそんな感じで、すっきり晴れた夏空のような面色だっ
た。
 瑠美はスポーツバッグに突っ込んで持ち込んだB5ノートを立ち上げてカメラの
画像を取り込んだ。パソコンはバッテリーで動く。使われていない薪ストーブの上
にモニタを開いて皆に言った。
「最初に優ちゃん、綺麗だったわよ」
 皆が居並びモニタに食い入る。優子も皆の後ろにいながら眸を背けず見つめ
ていた。身に起きた変化を見届けておきたいと優子は思ったに違いない。

 朝陽にきらめく森の清流。その沢の縁に乳房を抱くようにしてしゃがむ優子。
フルヌード。白い肌と背景でボケる森のコントラストが美しく、山田も西浦も絶句
して見入っている。さらに乳房を抱いたまま立ち上がった後ろ姿。やや横向きに
森の木々へと両手をひろげ、抱いてとせがむような女の裸身。食い入るように
見つめていながら山田は涙を溜めていて、優子がそんな山田の背後から手を
回して抱いている。
 山田はささやく。
「すごいよ・・綺麗だよ優ちゃん」
「ほんと? ほんとにそう思ってくれる?」
「思う。すごく綺麗だ」
 山田と優子のささやきに、瀬田が言った。
「見事だよ優ちゃん、よく跳んだね。そうだろ山よ、いい子じゃないか優ちゃん
は」
 山田は何度も何度もうなずいた。
「綺麗です、嬉しくて涙が出ます。ああ好きだって思いました」
 優子は微笑み、山田をぎゅっと抱き締める。
 瑠美は言った。
「女の自分に自信が持てない。だから彼女は裸を晒した。私は女よね? 女と
して生きていいのねって、そう自分に問いかけるために」
 瀬田も赤木も斉藤もそこにいた皆が優子を振り向き、皆が揃って力強くうなず
いてやっている。
 優子は言った。
「これまでの私を脱ぎたかったの。私は女よって思って生きたい」
 山田が振り向き、背後にいた優子を抱き寄せて、しっかり抱いて頭をくるんで
やって撫でている。優子は山田を見つめていて、皆の眸を気にせずキスを受け
入れた。
 麻紗美が言った。
「もう最高ぅ・・優ちゃんカッコいいんだもん。ほんと綺麗」

 その次、今度は山崎と砂田のショット。こちらも揃ってフルヌード。男としては
すっきり細く白い、引き締まった若い裸身。二人揃ってカメラに背を向け、森と沢
を背景に立っている。さらに手をつないで立つ姿、山崎が立って砂田がしゃがみ
山崎の腰を抱くシルエット。男同士で抱き合って見つめ合う姿もあった。
 皆は声を失った。綺麗という表現がふさわしい男のヌード。抱き合う姿は慈愛
に満ちて、それはやさしい愛の姿。
 赤木は言った。
「さすがだよ瑠美さんは。巧いもんだぜ、ちっともエロじゃねぇもんな」
 瀬田は言った。
「そう思う、心をそのまま撮ったようだ」
 山崎と砂田は自分の姿に揃って微笑み、そして言った。
「BLでもいいMでもいい、僕らは素直に生きていたい。人は心がすべてなんだ
と思い知る撮影でした」
 麻紗美が涙ぐんでいた。よくぞ跳んだと麻紗美も感じて、感動していた。

 そして最後のワンショット。
 細く白い男二人の裸身に前後を挟まれ、白い優子は抱かれていて、優子だけ
がレンズを見て微笑んでいる。愛を得た女の誇らしさだと恵子は感じた。
 瑠美は言った。
「性別よりも人であること。ふいにそう思ったものだから。優ちゃんも山崎君も砂
田君も素敵だったわ。あなたたちの気持ちが私に響いた。瀬田宿のみんなだっ
て生涯の友だちよ」
 言いながら瑠美は山崎に歩み寄り、そっと頬にキスをした。砂田にも歩み寄っ
てキスをする。麻紗美がたまらず山崎の頬にキス、続いて砂田にチュッ。
 そのとき恵子は優子を抱いて唇にキスをした。それから優子は西浦に抱かれ
斉藤にも赤木にも抱かれ、最後に瀬田に抱き締められた。
 瀬田の胸で優子は言った。
「瑠美さんに習いますカメラ。決めたんです」
「うんうん」
「ずっと瑠美さんのモデルでいたい。今度はそのためにここに来る」
「そうか、うむ、もちろんかまわんよ」
「あたし山田君が好き。男の人と恋愛していいんですね私って?」
 瀬田は黙って深くうなずき、優子の髪を荒く撫でながら体がしなるほど抱いて
やる。

 それでそのとき、山崎と砂田の二人が瑠美のそばで言うのだった。
「それは僕らも。ずっと撮ってくださいね。二人で抱き合って思ったんです、男を
嫌いになれないなって。僕らの愛は目の前にあったのかなって」
 瑠美は苦笑しながらも二人の手を取り、そのまま引き寄せて左右に抱いた。
 斉藤が鼻の頭をちょっと掻いて含み笑い、同じように苦笑する赤木の背をぽ
んと叩いて外へと連れ出す。こんな展開、この二人のガラじゃない。
「一服すっか? やってらんねぇ」
「言える・・やってらんねぇ」
 斉藤のタバコ。しわくちゃの箱を叩いて一本に背伸びさせ、それを赤木が抜き
取った。家の周りは花園だった。あのとき植えたさまざまな種が開花して、ナス
も含めて活き活きしている。山里は見渡す限り、透き通るように晴れていた。
 家の中から瀬田の声。
「赤さん、朝飯喰ってはじめますよ!」
「赤ちゃーん、ご飯だよーっ、こっちおいでぇーっ。あははは!」
 それは麻紗美の声だった。
「あ、クソっ・・あんなこと言ってやがる・・跳ねっ返りめ」
 赤木が眉を上げ、斉藤が声を上げてガハガハ笑った。

 急ぎ食べて時刻は九時過ぎ。瀬田宿三度目の奥秩父は、男女合わせて参加
者総勢百十七名。学校の夏休みと重なったからか、人数が多くても子供連れは
少なく四組、小学生の子供らが五人だけということで、子供らまでも含めて百二
十二名。子供たちは夏は海ということで親の自由にならないもの。
 そんなことで三十代から下の若者たちの天下となった。校庭ではキャンプファ
イヤーが準備され、石組みの炊事場にも火が入る。そして校庭と校舎の間あた
りに炭火の焼き台が四台準備され、赤木、恵子、山田と優子、そして瀬田が位
置に着く。瑠美は妊娠初期の体を気づかい写真を撮ってまわるだけ。瀬田宿の
家では、麻紗美と西浦が調理の下ごしらえ、それを山崎と砂田が右往左往して
配る。斉藤は全体を見渡して指示をとばす役だったが、焼き台あたりをうろつき
ながら結局料理のデリバリーに奔走した。焼き台には次々に人が集まり、校庭
に張ったそれぞれのテントでつくった料理も持ち寄られて皆で群がる。
 食欲旺盛、しっちゃかめっちゃか。バイキング状態となっていた。

 そんな中で斉藤に寄り添って手伝う女性がいた。佐藤香美。前回キャンプに
参加して名前がおしいということで盛り上がった女。香美はじきに三十一になる
と言い、なのにちゃきちゃき動いて活発そのもの。斉藤とソリが合うのか、すっ
かり意気投合してスタッフのように動き回る。
「おい香美、野菜だ野菜! タマネギとかナスとか、なんでもいいや!」
「はーい、行って来るねっ」
 香美は、こうしたキャンプではめずらしく赤いショートパンツにTシャツ姿。走っ
て家へと駆け戻る。ルックスもじつに若く、周りの男たちからも注目されていた
のだった。
「野菜ちょうだい。タマネギとかナスとか何でもいいって熊さんが」
 斉藤を熊さんと呼べる唯一の女が現れた。
「おっけ、わかったよん。わかったけどさ、たまらんよー、キリがねーっ! 包丁
に力が入らんもんっ」
 と麻紗美はパニック。家の台所は調理台が狭く、家庭用の小さなまな板しか
置けない。したがって包丁も短かな家庭用。テキパキいかない。校庭も校舎も人
また人で下ごしらえを家でしないとどうにもならない。カマドでご飯を炊いたりも
あり西浦も汗だくだったし麻紗美もヘロヘロ。

 そんな様子に香美は言った。
「じゃあ代わろっか? あたしやったげる。麻紗美ちゃん少し休みなよ」
「あそう? じゃあごめん、たのんますっ。疲れたぁーっ!」
 西浦が苦笑して言った。
「てぇコトで、メンバーは増えていく・・こんな家じゃ入りきらんようになる。あっは
っは」
 麻紗美は、へっ・・と鼻で笑って家を飛び出し、恵子がいる焼き台のところへと
駆けて行った。恵子はまったく休んでいない。
 そしてしばらく。その恵子が麻紗美とタッチで戻って来て、香美を横目にちょっ
と笑い、段差のある上がり框にどすんと座った。
「もうダメ、手がバカになっちゃってる。煙を浴びて油だらけ、トイレにも行けない
し」
 と言って、声を上げて豪快に笑った。
「みんな明るい、ほんといいクラブです」
 そう香美が言って、恵子はあらためて香美を見た。
「佐藤香美さんでしたよね?」
「ええ香美です、よろしく。熊さんとは意気投合しちゃって、なんかスタッフみたい
にされちゃった」
「熊さんね・・ふふふ、確かにそうだわ、熊みたい」
「そうなんですよ。プーさんと呼ぶほど可愛くないけど。あははは」
 屈託なく、いい感じ。恵子はなにげに言ってしまう。
「斉藤さんのこと好きみたいね?」

 香美は、そこは大人で、ごく自然に受け流す。
「さあ、どうなんでしょうね。あたしは思うほどキレイじゃないし」
 西浦も顔を上げて恵子と二人で見つめていた。香美はまな板の手元を見なが
ら言った。
「バツイチなのね。崩れちゃって遊んだ遊んだ。いろいろあった女ですから」
 恵子は納得。結婚にしくじった女はたいがいそうだ。香美は話題を変えようと
したのか西浦を見つめて言った。前回参加できなかった西浦は香美にとっては
はじめて。
「西浦君よね?」
「はい西浦です」
「尊敬するわよ、瑠美さんの気持ちがよくわかる。いい男よ、とっても。羨ましくっ
てならないから」
「そう言われると嬉しいです。この秋に式を挙げて、でももうおなかに・・あ・・」
「ええーっ! そうなの? 赤ちゃんがいる?」
 恵子は横目に苦笑した。ノリで話すタコ坊主。しかたなく恵子が代わって白状
した。
「じつはそうなのよコレが。できちゃった婚なんだけど、西クンのご両親が大賛
成で、赤ちゃんできたって報告したら嬉しくて狂っちゃったって」
 香美は黙って西浦を見つめていて、そのうちうなずき、声もなくなる。
 恵子は言った。
「今回ちょっと皆さんに報告があるのよね。私も瀬田さんと結婚します」
 ハッとして顔を上げた香美だったが、何かを振り切ったように態度を変えた。
「ええーっ、そうなのーっ! おめでとう、どっちもこっちも、さすが瀬田宿って感
じよね。いい人ばかり。あーそう? 瀬田さんと恵子さんが? へええ」
 やたら明るい。大袈裟。寂しさをごまかすときの常套手段だと恵子は察した。
斉藤が気になって参加したのは想像できた。

 暗くなる前にスタートしたパーティだったが落ち着きだしたのが七時過ぎ。食
後のコーヒーを赤木が準備しだしたのもその頃だった。あれほど用意した食材
もほとんど尽きて、瀬田宿のスタッフは飲まず食わずで奮闘していた。場が落ち
着いて瀬田そのほかスタッフたちが一息つくと、どこからともなく拍手が来た。お
疲れ様とスタッフをねぎらう拍手。拍手はひろがり皆が周りを取り囲む。
 と、そこで瀬田が立ち上がった。
「楽しんでもらえたなら嬉しいですよ、皆さん今日はありがとう」
 それから瀬田は、まず先に山の中の沢の存在をアナウンス。ここを訪ねた記
念の撮影会。村の事情もかいつまみ、スタートは明日の午後。参加は希望者の
みとして別料金であることも案内した。写真代と昼食代とで合わせて一人二千
円。握り飯の支度もあるから明日の午後ということで辻褄を合わせたつもり。遠
くからの参加者たちは午前中に引き上げる。そこまで考え合わせた上での判断
だった。

 そしていよいよ結婚報告。本日のメインイベントといったところ。
 最初に西浦と瑠美の結婚。新妻の妊娠。続いて瀬田自身の結婚。参加者た
ちは、焼き台で油まみれになっていた作務衣姿の恵子と、元はプロ野球のスタ
ーだった瀬田がそうなっているとは思わない。驚きと歓声。拍手喝采。瀬田宿か
ら誕生した二組の夫婦を祝って、やんやの騒ぎとなってしまう。瑠美は体を気づ
かって早々に引っ込んだものの西浦は残り、高校生の麻紗美も含めてそのほか
みんなで大祝宴。
 そしてそんな群衆にまぎれるように、斉藤に寄り添って立つ香美がいた。香美
は斉藤の体の後ろで斉藤の手を握り、校舎の裏へと斉藤を誘い出す。そこだけ
打って変わって静かな夜。シャワーが準備されていて、焚き口で種火が弱く燃え
ていた。
 拒まずついてきてくれた斉藤を香美は見つめた。やさしい女の笑みだったが眸
の底には恐怖が潜む。断られると覚悟した。
「熊さん、あたしね・・」
「おぅ? どした?」
「あたし・・ふふふ・・熊さんといると楽しいかも・・」
 微笑みだけで伝わるもの・・斉藤は大人だった。
「俺でいいのか? 歳も違うぜ?」
 キュンとして見つめる香美。伝わっていたと思うだけで震えてしまう。
 斉藤は言った。
「もういい、わかった、もう言うな。季節は最高、まさに夏。一緒にテントで寝てみ
るか」
 香美はうなずくこともできずに見つめていた。本気なの?
「瑠美さんや恵ちゃんを見てるとね・・」
「だから言うなって。熊かもしらんが馬や鹿ではないんでね。俺から言う。気にな
ってた、おまえのことが」
「・・嬉しい」
「夏の森は陽射しで育つが、影の側が北風にも晒されて目が詰まり、強くなって
木を支える」
 香美は微笑みながらも眸が笑い、たまらないといった面色だ。
「そうね、うん・・ありがとう。だけど・・うぷぷっ、似合わねーっ! あははは!」
 笑っていながら涙があふれる。熊の胸に飛び込んで抱かれた香美。漆黒の
森の闇が、重なっていく男女のシルエットを隠してくれる。

 終わってみると十時を過ぎた。近隣への配慮から十時終了がクラブのスタイ
ルだったのだが、それを少し過ぎてしまった。
 再起した瀬田への思いから集まってくれた者もまだまだ多く、瀬田と赤木が校
舎の講堂でシュラフに寝る。今回は数が多過ぎ、職員室も開放した。
 斉藤は校庭の隅に自分のテントを張り足して香美と二人。そのほか皆は瀬田
宿の古い家にまとまった。明日も朝から弁当づくり。沢での記念撮影に四十九
名が手を挙げた。
 六畳二間の狭い家にこれだけ揃うと布団は敷けない。皆がシュラフ。瑠美と西
浦が寄り添って、山田と優子が寄り添って、山崎と砂田が寄り添って、麻紗美は
恵子に寄り添って横になり、恵子に手を握られて眠ってしまう。心地いい疲れ。恵
子は握られた手に頬を添えて甘えてくれる麻紗美の寝顔が可愛くてならなかった。
私の中で同じように千早に甘えて欲しかったし、ひとつの体で愛される悦びを共
有していてほしかった。

 その同じ頃、講堂にシュラフを並べた瀬田と赤木。二人とも仰向けに薄闇の天
井を見つめていた。赤木がささやく。
「いいクラブになったもんだぜ」
「そうだな。赤さんにも世話になったし。瑠美さんはもちろんなんだが優ちゃんや
山崎砂田のことも嬉しくて・・」
「へへっ、斉藤さんも何やらコソコソ」
「うむ、みたいだな。メンバーがまた一人ってことになるのか・・」
 そこで赤木は顔を向けて小声で言った。
「じつはな瀬田、ちょいとあるんだ」
「どうした?」
「まだ先の話なんだが、辰のヤツから電話があってよ」
 辰原だ・・東京ドームに本拠を置く東新シャイアンズのスーパースター。キャン
ピングカーを持っていて、瀬田宿とは違うスタイルのキャンプを楽しむ男であった。
 赤木は言った。
「オフになったら女の子を連れて俺も行きたいって言うんだよ」
「女の子?」
「その子、いま二十二でな、シャイアンズで高卒三年目のキャッチャーの恋人ら
しいんだが、キャッチャーとしてはダメってことで・・」
 選手としての見込みなしということで彼が自暴自棄に陥って、二人は壊れかけ
ている。
「で、その彼女ってのが辰の彼女の妹らしい。先輩との付き合いの中で出会った
妹にラブってことなんだが、彼女の方が惚れちまって鬱というのか心を病んでる
感じだそうだ。俺から言うより赤さんから話してみてくれないかって。半年も前か
ら悩んでたことらしい。知るかとは言ったものの気持ちもわかるしよ。瀬田宿をネ
ットで見てて、もうそれしかないって思ったそうだ」
 赤木は瀬田宿のメンバーであり元は同じチームの新人だった。辰原としては
二人を引き合わせた立場もあり、また妹のことで姉にすがられ、しかたなくといっ
たところだろう。
 しかし半年前と言えばショップができるさらに前・・オープンに来てくれたあの
ときすでに悩んでいたということになる。
 他のことなら瀬田は考えたかもしれなかった。しかし他人事ではいられない。
戦力外を通告されて一度は信じた女性に去られている。その子は逆。愛してい
るから苦悩している。

 瀬田は即座に言った。
「わかった、電話しとくよ辰原さんに」
「そうしてくれるか? すまんな」
「そういうことならオフまで待つ必要もないだろう。次回でもいいし早いほうがい
いからな」
 北風に吹かれて凍えるときは誰にもあるもの。あのときの千早のように寒風
を吹き飛ばす南の風になれたらいい。千早ならきっとそうすると瀬田は思った。


 夏の北風・・完

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